選定前に確認すべき4つのポイント
まずは、以下の条件を整理することで適した溶接機が見えてきます。
- 母材の種類
鉄、ステンレス、アルミなど、材質によって最適な溶接方式が異なります。 - 板厚と形状
薄板やパイプ構造、厚板の肉盛りなど、求められる電流・入熱量に注意が必要です。 - 作業環境
屋内/屋外の使用場所、電源環境(単相100V・200V/三相200V)も重要な判断基準です。 - 生産量と作業時間
1日に数点溶接する用途と、量産現場では機種選定の考え方が変わります。
溶接方式の違いと使い分け
被覆アーク溶接
電源と本体のみで使えるシンプルな構造。屋外作業や修理用途に適しています。
半自動溶接(MIG/MAG)
ワイヤ送給装置付きで連続溶接が可能。鉄・ステンレスなどに幅広く対応し、生産性重視の現場に最適です。
TIG溶接
美しいビードが得られ、精密溶接やアルミ加工に適しています。AC/DC切替機能付きで用途が広がります。
代表的な溶接方式と特徴
溶接方式 | 特徴 | 適した用途 |
---|---|---|
被覆アーク溶接 | シンプルで屋外でも使える | 建設現場、メンテナンス |
半自動(MIG・MAG) | 高速・連続溶接に対応 | 製缶・量産ライン |
TIG溶接 | 高精度、美しい仕上がり | ステンレス製品、薄板加工 |
1.アーク溶接機について
アーク溶接機(被覆アーク溶接機/SMAW:Shielded Metal Arc Welding)は、
電極棒(溶接棒)と母材の間に発生するアーク熱で金属を溶かして接合する方式です。
電極棒の外側の被覆剤がアーク中で分解し、保護ガスやスラグを発生して溶融金属を守ります。
装置はシンプルで、小型・軽量のモデルも多いです。
アーク溶接機の構造・仕組み
主な構成要素:
- 電源装置(溶接機本体):交流または直流。最近は軽量なインバータ式が主流。
- ホルダー(手持ち電極ホルダー):電極棒を挟んで通電させ、手動でアークを操作。
- アースクリップ(母材側に接続)
- 電極棒(溶接棒):JIS規格で分類。母材や用途に応じて選ぶ。
アーク溶接のメリット・デメリット
メリット | デメリット |
---|---|
装置が安価かつコンパクト | 熟練が必要で、初心者には難しい |
屋外作業に強い(風に強い) | スパッタが多く、後処理が必要な場合あり |
電源100Vモデルも存在し、現場で使いやすい | 薄板では穴が開きやすく、厚板向き |
アーク溶接が向いている作業・現場
- 建設現場や屋外配管の修理作業
- 鉄骨や厚板鋼材の接合(4.5mm以上が理想)
- 製缶・補修・点検などスポット作業
- 電源や設備が限られる現場(100V使用可)
機種選定のポイント
チェック項目 | 推奨内容例 |
---|---|
電源 | 単相100V/200V/三相200V(現場環境に応じて) |
出力電流 | 100A〜200Aが多用途に使いやすい |
板厚 | 3mm以上なら安定、5mm以上で本領発揮 |
携帯性 | インバータ式なら軽量で現場向き |
電極対応サイズ | φ2.6〜φ4.0mmが主流 |
安全装備・保護機能 | 過熱保護、アークスタート補助など |
おすすめ機種例(当社取扱ブランド)

●ダイヘン、パナソニック
高性能で連続使用にも強く、工場据付にも対応可能。鉄骨、配管工事、建築・修理業務で人気。


●育良精機・スズキッド
頑丈な筐体と安定出力。小規模現場~自動車、農業機械修理などに最適。コンパクトで出張溶接にも最適。
2.半自動溶接機(MIG/MAG)とは?
半自動溶接機とは、ワイヤが自動送給されるアーク溶接方式で、作業者はトーチ操作とガイドに集中できるのが特徴です。
「半自動」という名称は、アークの発生・ワイヤ送給は自動、溶接部の操作は人の手で行う点から来ています。
メリット(導入効果)
- 高効率・高スピード:連続送給により、アーク停止の時間が少なく、生産性が高い
- 作業品質が安定:一定のワイヤ速度・アーク条件により、溶接品質にムラが出にくい
- 習熟が比較的容易:TIGより簡単で、アークの維持が容易
- 対応材料が広い:母材・ワイヤ・ガスの組み合わせで多くの金属に対応可能
溶接機選定のポイント
1. 溶接材と用途を確認する
- 鉄(軟鋼・高張力鋼)中心 → CO₂溶接(MAG方式)
- ステンレス、アルミ → 不活性ガス(MIG方式)が必要
- 量産現場 or 修理作業 → 母材・作業内容で最適機種が変わる
▶ ポイント:ガス種(CO₂ or 混合ガス or アルゴン)に応じた機種を選ぶ
2. 板厚と必要電流範囲を把握する
- 薄板(1~3mm) → 低電流域で安定したアークが必要
- 厚板(6mm以上) → 高電流域で強い入熱・溶込みが必要
- 使用ワイヤ径も確認(例:0.8mm、1.0mm、1.2mm)
▶ ポイント:出力不足=ビード不良、過剰出力=焼き抜けリスク
3. 作業量・使用率(Duty比)の確認
- 短時間作業 → 小型・低Duty比でOK
- 長時間連続作業 → 高Duty比モデルが必要
▶ ポイント:安価な機種は連続使用に不向き
4. ワイヤ供給方式・操作性
- 内蔵型(コンパクト) or 分離型(外付け大型)
- 操作パネルの調整機能
- 初心者向け:デジタル制御・オートモード
- 熟練者向け:マニュアル制御
5. 電源環境の確認
- 単相100V(DIY)
- 単相200V/三相200V(業務用)
▶ ポイント:現場の電源容量に合うことが重要
半自動溶接機の構成




- 溶接電源部:アーク発生。インバーター or トランス制御
- ワイヤ送給装置:一体型 or 分離型。ローラーで供給
- 溶接トーチ:手持ち。空冷/水冷対応
- 溶接用ワイヤ:鉄、ステンレス、アルミなど材質ごとに種類あり
- 保護ガス供給装置:MAG(CO₂混合)、MIG(アルゴン系)など
CO₂/MAG溶接の主な特徴とメリット
① 低コストのシールドガス
炭酸ガスは安価で入手しやすく、ランニングコストを抑えられる。
② 深い溶け込みと強度
ショートアーク移行により、比較的深い溶け込みが得られる。
③ 高速溶接・高効率
ワイヤ自動供給により、手作業よりも速い。
④ 鉄系材料に強い
特に軟鋼に最適。自動車・造船・建設資材に広く使用。
注意点・デメリット
- スパッタが多い:後処理が必要。アルゴン混合で軽減可能
- 溶接ビードがやや粗い:美観はTIGに劣る
- 屋外作業には風防が必要:シールドガスが風の影響を受けるため
CO₂/MAG溶接の主な用途
- 自動車部品(フレーム、シャーシ)
- 建設用H形鋼・鉄骨構造物
- 農機具、重機部品の製作
- 薄板(1.2〜4mm)の高速量産溶接
MIG溶接の特徴
MIG溶接は基本的にMAGと同じ構造ですが、不活性ガス(アルゴンなど)を使用します。
特徴:
- スパッタが少ない
- 溶接ビードが美しい
- 高速・連続溶接が可能
- 非鉄金属(アルミ・ステンレス等)にも適応
MIG溶接用途
- アルミ製品のフレームやパネル
- ステンレス製タンク・厨房設備
- 自動車の軽量化部品
- 航空・宇宙部品
- 精密機器・装飾品の製作
CO₂/MAGとMIGの比較表
項目 | CO₂溶接(MAG) | MIG溶接 |
---|---|---|
使用ガス | 炭酸ガス(CO₂) | アルゴン・混合ガス |
適用材料 | 軟鋼(普通鋼)が中心 | 非鉄金属(アルミ・SUS) |
コスト | 安価 | 高価 |
スパッタ量 | 多い | 少ない |
ビード外観 | 粗め | 美しい |
3.TIG溶接機について(TIG溶接)
TIG(Tungsten Inert Gas)溶接は、タングステン電極と不活性ガス(主にアルゴン)を用いて母材をアーク熱で溶かし、
必要に応じて溶加棒を手動で供給して接合する溶接法です。
主な構成要素
- タングステン電極(非消耗電極:ワイヤは溶けない)
- アルゴンなどのシールドガス供給装置
- TIGトーチ(手元操作用)
- 電源装置(AC/DC切替、パルス機能付きもあり)
- 冷却水循環装置(高出力・連続作業用)
TIG溶接の特徴
1.メリット
- 非常に美しい外観仕上がり
- スパッタが少なく後処理が少ない
- 鉄・ステンレス・アルミ・チタン・銅・マグネシウムなど、多様な材質に対応可能
- 特にアルミなど非鉄金属の溶接では、TIGは必須
2.デメリット
- 溶加棒を手作業で供給するため、生産性は低め
- 高品質な溶接には熟練が必要で、初心者には難しい
- 溶接機本体や冷却装置、ガス供給設備など初期導入コストが高い
- 熱入力が集中するため、薄板では熱ひずみや溶け落ちのリスクあり
まず確認すべき基本条件
TIG溶接機を選定する際は、以下の要素を必ず整理してください。
①溶接対象の材質
鉄・ステンレス → DC(直流)機でOK
アルミ・マグネシウム → AC/DC切替機が必要(酸化膜除去のため)
② 板厚と必要な溶接電流
薄板(1〜3mm) → パルス機能付き、低電流安定性が重要
中厚板(5mm以上) → 高出力モデル、冷却性能が重要
③ 作業時間と使用頻度
短時間・スポット作業 → 空冷式で十分
長時間・連続作業 → 水冷式必須(トーチと電源の熱負荷対策)
④現場の電源環境
単相200V or 三相200V
電源容量は十分か(設置前に確認)
TIG溶接機の主要スペック比較ポイント
比較項目 | 内容 |
---|---|
出力電流範囲 | 薄板なら最小1A程度まで微調整可能。厚板なら最大200A以上が必要 |
AC/DC切替 | アルミ対応には必須。DCのみは鉄・ステンレス限定 |
パルス機能 | 薄板・精密溶接、熱影響低減に有効 |
冷却方式 | 空冷式(小型・軽量) or 水冷式(高出力・長時間向き) |
制御方式・操作性 | デジタル制御、メモリ機能、ペダル操作対応など |
サイズ・重量 | 設置スペース、持ち運び可能性も考慮 |
選定の失敗例と注意点
- 用途と合わない仕様を選ぶ
例:アルミ用にDC専用機を購入 → 酸化膜除去ができず溶接不可 - 電源容量・設置条件を確認しない
三相機や高出力機では設置条件を満たさないと稼働できない - 長時間作業に空冷式を使用
オーバーヒートのリスクあり - 操作性・オプションを見落とす
トーチの種類、ペダルの有無、互換性の確認漏れに注意
4.当社のおすすめラインナップ(例)
① AC/DCインバーター式 TIG溶接機
アルミ・ステンレス対応。薄板・精密作業向き。
② パルスTIG機能付き水冷式モデル
長時間の精密溶接、熱影響低減が必要な現場に最適。
③ 小型・空冷式TIG溶接機(出張・補修作業向け)
軽量・持ち運び可能で、現場補修や少量作業向け。




取扱メーカー:ダイヘン、パナソニック、育良精機 、スズキッドなど、国内有力ブランド中心
5.主な用途と活用シーン
- ステンレス製食品機械・厨房機器(美観重視、清潔性必須)
- アルミ製品(配管、筐体、軽量構造物)
- 航空機・宇宙関連部品(軽金属、耐熱合金の精密溶接)
- 医療機器、分析機器の精密部品
- 薄板、パイプのシール溶接、芸術・工芸品の溶接
特に薄板や微細部品、高難易度金属の溶接では、TIG以外の選択肢はほぼありません。
周辺機器・高圧ガスもまとめてご提供
トーチ、ワイヤ、ガス調整器などのアクセサリ類はもちろん、
溶接に必要な高圧ガス(アルゴン・炭酸・混合ガス)も一括でお届け可能です。
最適な一台で、現場はもっとスムーズに
溶接機は「どれでもよい」わけではありません。
作業環境・母材・品質要件に合った1台を選ぶことで、作業品質・効率・安全性すべてが向上します。
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